死なない程度に、ですが日常生活では不便に、車とぶつかり事故に遭いました。
私ではなく、私の嫌いな奴が。
轢過に感謝、俺は出社
「黒服が足りない」とか「○○ちゃんが会いたがってる」とかで呼び出されると、三回の誘いに一回乗る程度の頻度で、キャバクラにて黒服バイトをしています。
そして合わない奴はどこにでもいるので、黒服バイトにも「カクタ」という嫌いな黒服がいました。
カクタはこれまでに2人の新人キャバ嬢を口説いては辞めさせており、店から「次に問題行動を起こしたらクビ」と宣告されるほどのトラブルメーカーなので嫌いです。
あとこれはめっちゃ私情ですが、しょっちゅう「友に感謝」「元カノに感謝」とか言っていて、センスのない素人ラッパーみたいなところも癪に障りました。
そんなある日「カクタが事故って出勤できないから、明日出勤してくれないか」と店長から電話が。
何でもカクタは通勤途中に車に轢かれ、命に別状はないものの歩行に支障を来たして出勤できないそうです。
こんなとき、どんな風に心が動くのが普通なのでしょう。
事故に遭ったことは紛れもない災難なのだから、一般的には「まあ可哀想に」「命に別状はないかしら?」みたいなことを思うのでしょうか。
しかし、私は性格の悪い、不出来な人間です。
私が事故を知った瞬間に思ったことは
因果応報じゃバーーーカ!!!そのままくたばれ!!!
でした。
しかししかし、不出来で性格が悪くても、私は自分の欠点を取り繕える程度には狡猾。
「えー!?カクタさん心配ですね!とりあえず明日は代わりに出勤します」
と、人間性ごと嘘で塗り固めた返事をして電話を切りました。
私は大女優
その後の日々は、特筆することなく淡々と過ぎていきました。
毎日働くのはダルいから無理だけど、できる限りは出勤して、人手不足を補いました。
嫌いなカクタがいない黒服バイトはいつもよりも負担が軽く、私にしては比較的楽しく労働していたように思います。
ところが、あるとき店の近くでぼんやり鳩に餌をやってるおじさんを眺めていたら、視界の隅が不自然にぴらぴらと揺れたのです。
ぴらぴらが気になってそちらに意識を向けると、そこには軽く足を引きずりながらこちらに歩いてくるカクタが…!
ぴらぴらの正体は、カクタが私に向かって親し気に振っていた手でした。
予期せぬカクタアタックに内心では飛び上がるほど驚いていましたが、何といっても私は芸歴34年を誇る生粋の猫かぶり。
私は女優、私は女優、私は大女優…と念じれば(てめぇ生きてたのかクソ野郎)と思いながら「カクタさんじゃないですか!お加減はどうですか?」と口にすることくらい造作もありません。
(もっぺん轢かれろ。そして今度こそ召されてくれ)と思いながらも他愛ない近況報告をして、カクタとはものの数分で別れました。
骨折り損のくたびれ儲け
たった数分の出来事だったのに、さらにはまだ出勤前だというのに、カクタと会ってしまったことでまるで42.195kmを完走したかのような疲労っぷりです。
別れ際にカクタが抜かした「どぶのさんと偶然会えてよかったー!これも感謝すべきご縁っす」という言葉も、じわじわ気持ち悪くて重疲労。
私がこんなにへとへとなのは、一人で勝手に気持ちと裏腹の言葉を並べ立てたせいなのですが、何故だかカクタを憎む気持ちが一層増しています。
なお、その後カクタは無事に仕事復帰。
今日も私はキャストから「カクタさんがキモいんですけど」と、元気にクレームを受けています。
んじゃまた。